乳福も忘れないで。vol3
キリスト教系の学校の先生の機関誌「キリスト教保育」に縁あって「目福耳福口福」という欄にコラムを掲載しました。承諾を得て3回に分けて転載します。
最終回は、乳がんの治療についてです。
私は外科医なので、手術の話から始めます。乳がん手術の要点は、乳房を残せるか、残せないかです。残せないのであれば新しく作る再建という選択肢もあります。残す手術を乳房温存術といいます。周囲に取り代をつけてがん病巣をくり抜きます。現在では、およそ60%の患者さんが温存術を受けています。乳房を全て切除しないとがんを取り残してしまう患者さんに乳房切除術を選択します。50年以上前、全ての患者さんが乳房を丸ごと取られていました。そこにイタリアのいけおじベロネーシが、乳房を残しても大丈夫という有名な臨床試験をデザインして、見事に予後に変わりがない事を証明したのです。予後とは、乳がんで亡くなる方の率です。どちらの手術を受けても、10年後に予後に違いがなかった訳です。 では、何が予後を左右したか?
予後を左右したのは、薬物治療でした。どちらの手術を受けようが、乳がんの薬物治療を受けたかどうかが、分かれ道だと分かったのです。本当は、薬物療法が重要で手術の内容ではないのではないかと世界中の医者が感じていて、「そうじゃないのか?」を検証するために先に述べた臨床試験が行われたのです。薬物療法には、多くの種類の治療薬があります。髪の毛が抜ける抗がん剤治療は、その一部でしかありません。内分泌療法という治療を受ける患者さんが最も多いのですが、あと10回くらい紙面をお借りしないと詳しく説明できません。
乳がん治療は、この20年で大きく進歩しました。検診による早期発見と治療方法の進歩が、予後を改善してきたと言われています。女性のがんの罹患率第一位ですが、死亡率は第一位ではありません。乳がん検診を受けて、早期発見。そこで乳がんが見つかっても、慌てず騒がず、主治医からよく説明を受けて、正しい治療法を選択すれば良いのです。その際には、分かりやすく良く説明してくれる先生を選びましょう。ね、キリスト教保育と同じでしょ。
乳福も忘れないで コラムvol2
キリスト教系の学校の先生の機関誌「キリスト教保育」に縁あって「目福耳福口福」という欄にコラムを掲載しました。承諾を得て3回に分けて転載します。
前回は、乳腺の病気なかでも乳がんの早期発見の大切さに触れました。
早期発見の要点は適材適所です。プロが乳腺に適した検査を行い、検査結果を正しく診断することです。話は単純ですが簡単ではありません。キリスト教に基づいた保育と通じるものがありそうですが、知ったかぶりはここまでにします。検査は、二種類。マンモグラフィと超音波検査です。マンモグラフィは、乳房に特化したX線検査です。乳房を挟んで伸ばして撮影します。現在は、マンモグラフィに精通した女性放射線技師が増えて頼もしい限りです。そう、男の私はマンモグラフィを撮れません。そのかわり診断は、任せてください。マンモグラフィは読影資格制度を検診に取り入れた草分けで、評価の低い医師は読影に加わることができません。精度管理という考え方です。昔からある検査ですが、今はデジタル化され性能が格段に向上し、正確な診断が瞬時に可能です。
左右の乳房をそれぞれ二方向で撮影し、しこりや石灰化といった所見を探して診断します。乳がんのしこりは、周囲を引き込んで発育するのでスピキュラ(棘という意味)が特徴的です。しこりの周囲を棘が覆っていたらカテゴリー5です。ほとんどの良性のしこりは周囲を押し広げながら育ちます。丸くてがんではなさそうなのでカテゴリー3です。カテゴリー1と2は正常と明らかな良性です。この五段階のカテゴリーで篩に掛けます。実に奥深い検査です。
一方、超音波検査は、魚群探知と同じ原理です。音の反射を利用した検査で被爆をしないため妊婦さんも受けることができます。超音波はマンモグラフィと得意分野が違います。挟んでわかりにくい乳頭付近や腋(わき)、小さい数ミリのしこりも判別できます。ただし、超音波検査は操作する人や機械の違いで出来上がりがとても変わります。専門用語で再現性と言います。良性のしこりをがんの様な画像に作り上げることもでき、その結果、健診の際に「よく調べるマーク」が多くなってしまいます。
他にも新しい検査があり、上手に組み合わせて早期発見をしていきます。
乳福も忘れないで。コラムvol1
キリスト教系の学校の先生の機関誌「キリスト教保育」に縁あって「目福耳福口福」という欄にコラムを掲載しました。承諾を得て3回に分けて転載します。
今回、娘のお世話になった学校の先生とのご縁で三回の連載をさせて頂くことになりました。私の専門は、主に乳房にできた病気を治療する乳腺外科です。三回に分けてできるだけ分かりやすく乳腺疾患について述べたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
まず、乳房とは何でしょう?答えは、母乳を作り、赤ちゃんに与えるための器官です。母と子が深い絆を結ぶために必要な器官です。ただし、長い人生の中で乳房本来の業務時間はほんの僅かです。残りの時間、乳房は女性ホルモンの影響を日々受け続け、生理のたびに乳腺が張って痛くなり、揚げ句の果てにがんを患ったりします。
乳がんは女性のがんの第一位です。今でも、肺がん、大腸がんと並び増加を続けています。多くの乳がんは40歳代から60歳代に発生します。奴らは、脂の乗った働き盛りの女性保育者を虎視眈々と狙っています。がんにならない方法(一次予防)がわかれば、奴らの鼻を明かせ、ストックホルムのパブの椅子にサインを残せる事ができますが、残念ながら今まで誰も成し得ていません。がんをできるだけ早く見つけること、がんになりにくい生活を実践すること(二次予防)が最善策です。策を手短にまとめます。有効な検診を受けること、閉経後に太らない、運動を心掛ける、脂肪の多い食事を避ける、これに尽きます。検診以外は、皆さんが子供たちとの真剣勝負で達成できる内容ですね。
乳がん検診は、世界中でほぼ同じ方法で行われています。各自治体は、40歳以上の無症状の女性に隔年でマンモグラフィ(乳房X線撮影)を行っています。ただし、人間ドックなどはマンモグラフィと超音波検査を併用、もしくは単独で行っています。個人的には併用が望ましいと思います。そして、検診に定年はありません。乳がんリスクは年齢が進むほど上がるからです。では、40歳より若ければ乳がんに罹らないか?答えはもちろんNOです。およそ10%は遺伝的素因が原因で発症する乳がんだと言われており、若年者の乳がんはその可能性が高くなります。家族に乳がんの方がいる場合もリスクは上がります。
局所的非対象陰影?
検診(健診)でマンモグラフィを受けた結果、「右局所的非対象陰影の疑い」などという仰々しい言葉が書いてあって、経過観察や要精査になったことを経験した人は多いと思います。これは英語では、focal asymmetric density FADと呼ばれ、マンモグラフィ上の所見の一つです。
「左右ある乳房の写り方が同じでなく部分的に非対象な陰があるが、しこりと判断するにはぼんやりしている。」という時に、異常なしとするにはちょっと不安だという心理が読影者に働くと頭に浮かんでくる都合の良い所見なのです。実際の精査で乳がんが発見される率は数%と言われ、事なきを得ることが多い所見です。
とはいうものの、がんが隠れている可能性を指摘されているので、そのまま放っておいて良いわけがありません。大丈夫を確認するため超音波検査も併せて精査しましょう。
乳頭分泌って何?
よく、当院の外来に「乳頭や乳輪から黄色い分泌物が出て、痒い、ジクジクする。」と訴えて受診する患者さんがいます。
これは、皮膚からのリンパ液が染み出てきたものです。本当の乳頭分泌とは、その言葉通り、乳腺の中から出てきた分泌液が乳管を伝って乳頭(乳首)の先から出てくるものを指します。
生理前に下着に痕がついていたりすることで気付きます。しこりもなく血液の乳頭分泌(血性分泌と言います)がきっかけで見つかる早い段階の乳がんや、乳管内乳頭腫という病気が疑われます。ただし、鼻をかみすぎた時にティッシュペーパーにうっすらと血の混ざった鼻水がつくように、一時的なものもあるので、血性分泌に気付いたときは焦らず、でも乳腺クリニックをきちんと受診しましょう。
乳がん検診は何歳から?
一口に乳がん検診と言っても、実はいろいろと分けることができます。
市や区の行っている乳がん検診は、触診とマンモグラフィの組み合わせかマンモグラフィ単独で、40歳以上の隔年で受診できるものです。
乳がんは、40歳から60歳を緩やかなピークに持つ病気なので、税金を投入して行う検診は40歳以上という括りになっています。
実際は、30歳代でも乳がんが見つかる方は少ないわけではありません。
家族に乳がんの患者さんがいる方などは、市や区の検診を待たずに受けるべきだと思います。健診ということばを使ったりします。
その際は、超音波検査も加えた方が良いです。
20から30歳代の乳腺量が多く皮下脂肪の少ない女性では、マンモグラフィ上「極めて高濃度乳腺」になることがあり、
マンモグラフィ単独では細かい所見が分かりづらいからです。
石灰化と乳がん
検診や健診結果で、「石灰化」という言葉をよく目にします。文字通り、乳腺の中にカルシウムの結晶ができて石灰化となります。
石灰化を経過観察するように言われたと話す患者さんがいますが、石灰化には良性と悪性の石灰化があり、経過観察が必要なものは悪性の疑いや否定出来ないものに限ります。
明らかに良性の石灰化は、放ったらかしで大丈夫です。良性と悪性の違いは、正常の乳腺内にできたものと乳がん細胞が死んでその部分に石灰化ができたものとの違いになります。
石灰化を評価するのにはマンモグラフィが一番です。形や分布(広がり具合)、時間を開けて増えたか増えないか、などで判断します。
よく見るカテゴリーという言葉は、マンモグラフィ上の分類です。この要素の組み合わせでカテゴリー1からカテゴリー5までに分けます。
カテゴリー5は乳がんで間違いないもの、カテゴリー4は乳がんの疑い、カテゴリー3は、多分大丈夫だけどほったらかしはだめ、カテゴリー1と2は良性で問題なしとなります。
健診やドックは、厳しめにチェックしていることが多いので、石灰化と書いてあっても焦らないことです。
新型コロナウイルスによる検診・受診控えが増えているという現状について
コロナ禍で受診を渋っている人が実際にいるというニュースです。こちらのNHK NEWS WEBより。
これは由々しき事態です。病気は待ってくれません。10月に入り幸い小康状態の様相ですが、コロナ禍の状況にかかわらずワクチン接種、マスクやソーシャルディスタンスなど感染予防をきちんと取れば簡単に感染するものではありません。
当院に限らず各医療機関では感染予防対策を徹底を努めております。
乳房に気になることがある人、検診が空いてしまった人は、是非、安心して乳腺クリニックを受診することをお勧めします。
講談社ウェブマガジン”ミモレ”連載中第六弾 アンジーが選択した「予防切除」とは?「乳がんは遺伝するのか」という疑問に医師が回答
4月11日発行第五弾タイトル
”アンジーが選択した「予防切除」とは?「乳がんは遺伝するのか」という疑問に医師が回答”
こちらよりご覧ください。
乳がん治療中に患者さんへ向けた”コロナワクチン”に関する情報
新型コロナウイルスに対するワクチン接種が、高齢者に続き65歳以下の対象者にも始まっています。現在乳がん治療中の患者さんにとってワクチン接種への様々な疑問や不安を感じている方が多くいらっしゃるかと思います。そこで患者さんからよく聞かれる質問などを基に現時点で分かっている情報をお伝えします。お問い合わせの前にぜひご確認ください。
Q1. 乳がん治療中でも、新型コロナウイルスのワクチンを打ってよいですか?
ワクチンを接種しても問題ないと考えます。海外のデータでは、治療中のがん患者さんもワクチンを接種してよいとされています。なによりも新型コロナウイルスへの感染と重症化を予防することが重要だと考えます。接種のタイミングは、受けている治療によって異なりますので院長にご相談ください。
Q2. どこでワクチンが打てる?
お住まいの自治体や大規模接種会場、職域接種会場などで接種してください。当院では患者さん向けの新型コロナウイルスワクチン接種は行っておりません。
Q3. 自分は優先接種の対象になる?
厚生労働省が決めた接種順位は、①医療従事者、②高齢者(昭和32年4月1日以前に生まれた方)、③高齢者以外で基礎疾患を有する方や高齢者施設等で従事されている方、④それ以外の方となっています。このうち、③の「基礎疾患」の中にがん治療中の方も含まれます。ステロイドを使用している方や、肺や心臓の機能が落ちている方も対象となります。詳しくは厚生労働省のサイトをご参照下さい。
厚生労働省 新型コロナウイルスワクチン接種についてのお知らせ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html
Q4.ワクチン接種後の副反応が心配です。
ファイザー社・モデルナ社製のワクチンでは、一部の方で接種後の発熱、倦怠感(だるさ)、接種した場所の痛みや腫れなどが報告されています。1回目より2回目接種後に副反応が出やすいこともわかっていますので、乳がん治療の直前にワクチンを接種することは避けた方がよいでしょう。
アナフィラキシーという重いアレルギー症状は、海外では100万人あたり10人程度とされています。ワクチンを接種した後は、しばらく接種会場にとどまり、体調の変化がないことを確認してから帰宅することになります。他の薬などで意識を失う、冷や汗が出て血圧が下がるなど、激しいアレルギー症状を起こしたことがある方は、あらかじめ接種会場の医師にご相談ください。
出典:厚生労働省 新型コロナウイルスワクチン接種についてのお知らせ より
参考リンク
・ 厚生労働省 新型コロナウイルスワクチン接種についてのお知らせ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html
・日本癌治療学会,日本癌学会,日本臨床腫瘍学会(3学会合同作成)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とがん診療についてQ&A
-患者さんと医療従事者向け ワクチン編 第1版-
https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information/qa_vaccinel_3gakkai.html
講談社ウェブマガジン”ミモレ”連載中第五弾 今や「11人に1人」の時代に。乳がんが日本で増え続けるワケ
4月4日発行第五弾タイトル
”今や「11人に1人」の時代に。乳がんが日本で増え続けるワケ”
こちらよりご覧ください。
講談社ウェブマガジン”ミモレ”連載中第四弾 乳がんの再発・転移の確率は?乳腺専門医への取材でわかった、治療の最新事情
3月28日発行第四弾タイトル
”乳がんの再発・転移の確率は?乳腺専門医への取材でわかった、治療の最新事情”
こちらよりご覧ください。
講談社ウェブマガジン”ミモレ”連載中第三弾 マンモグラフィとエコー、片方じゃダメな理由と病院選びのポイント【乳がん検診】
3月21日発行第三弾タイトル
”マンモグラフィとエコー、片方じゃダメな理由と病院選びのポイント【乳がん検診】”
こちらよりご覧ください。
講談社ウェブマガジン”ミモレ”連載中第二弾 おっぱいチクチクは乳がん?乳腺症?乳腺専門医が教える乳がんセルフチェック法
3月14日発行第二弾タイトル
”おっぱいチクチクは乳がん?乳腺症?乳腺専門医が教える乳がんセルフチェック法”
こちらよりご覧ください。
講談社ウェブマガジン”ミモレ”にて『乳腺疾患』についてのインタビューが全10回で掲載されます。
いつも当院のホームページをご覧いただきありがとうございます。
この度当院の院長が講談社ウェブマガジン”ミモレ”にて取材を受け、3月7日より毎週掲載(全10回)されることになりました。
乳がんや乳腺の疾患についてわかりやすくご説明しております。
3月7日第一弾タイトル
”胸がチクチク、コロコロ…育児・働き世代を襲う乳がんの基礎知識”
ぜひこちらをご覧ください。
乳がんと検診について part2
乳がんは、定期的に人々の話題に上る身近な病気です。
死亡原因で5位、罹患率(乳がんにかかる率)では女性のがんの1位です。
最新の国立がんセンターの統計では、2015年に93.529人もの女性が乳がんに罹患しています。
特に働き盛りの女性や小学校や中学校、高校生のお子さんがいるお母さんの年代にピークがあることも特徴です。
がんは、ある日突然、細胞の中で設計図と違う遺伝子ができ、勝手に役に立たない細胞が増えた結果です。
役に立たないだけならまだしも転移して体中を蝕み、命を脅かす厄介者です。
「がんにならない」ための予防を一次予防といいます。
乳がんの場合、遺伝性乳がん家系の場合を除き、残念ながら一次予防はありません。
「より早くがんを見つける」二次予防が、乳がんで亡くなる方を減らす最も有効な予防策となります。
つまり乳がん検診です。
どうして早期発見が重要なのでしょうか。
それは、早く見つければがんが勢いをつける前にしっかり治療できるからです。
でも、中には抗がん剤治療を受ける人や再発してしまう人がいるのはなぜでしょう。
乳がんには性質の異なる以下の4つのタイプが存在します
① 比較的ゆっくり育ち、女性ホルモンに関係する治療に反応するタイプ
② どんどん育ち、抗がん剤治療が必要なタイプ
③ 早く育つが、特殊なタンパク質を持ち特定の薬が良く効くタイプ
④ ①や③の性質を併せ持つタイプ
①のルミナールタイプが最も多く約70%を占めます。
ゆっくり育つので乳がん検診がとても有効です。
一方、②のトリプルネガティブタイプは、速く育つため突然しこりを自覚して受診することになり、「1年前に検診を受けていたのに」というようなエピソードや、小林麻央さんのようなことごとく治療に抵抗するようなタイプですが、
実は全体の1割程です。
③のHER2(ハーツーと読みます)タイプは、治療成績がこの10年で飛躍的に良くなったグループです。ある程度進んで見つかることが多いのですが、治療に良く反応して再発する人が少ないタイプです。
つまり、多くの乳がんは検診で早期発見ができる上に、定期的に検診を受けたり、クリニックを受診して乳がんに対する意識を高めることで、②や③のタイプの乳がんが万が一出来ても、早くに気付くことができます。
この考え方を欧米では、Breast awareness(ブレストアウェアネス:当てはまる日本語はまだ作られていません)ということばを使って説明しています。
乳がんと検診について part1
乳がんは、定期的に人々の話題に上る身近な病気です。
死亡原因で5位、罹患率(乳がんにかかる率)では女性のがんの1位です。
最新の国立がんセンターの統計では、2015年に93.529人もの女性が乳がんに罹患しています。
特に働き盛りの女性や小学校や中学校、高校生のお子さんがいるお母さんの年代にピークがあることも特徴です。
がんは、ある日突然、細胞の中で設計図と違う遺伝子ができ、勝手に役に立たない細胞が増えた結果です。
役に立たないだけならまだしも転移して体中を蝕み、命を脅かす厄介者です。
「がんにならない」ための予防を一次予防といいます。
乳がんの場合、遺伝性乳がん家系の場合を除き、残念ながら一次予防はありません。
「より早くがんを見つける」二次予防が、乳がんで亡くなる方を減らす最も有効な予防策となります。
つまり乳がん検診です。
どうして早期発見が重要なのでしょうか。
それは、早く見つければがんが勢いをつける前にしっかり治療できるからです。
でも、中には抗がん剤治療を受ける人や再発してしまう人がいるのはなぜでしょう。
乳がんには性質の異なる以下の4つのタイプが存在します。
▶比較的ゆっくり育ち、女性ホルモンに関係する治療に反応するタイプ
▶どんどん育ち、抗がん剤治療が必要なタイプ
▶早く育つが、特殊なタンパク質を持ち特定の薬が良く効くタイプ
- ▶①や③の性質を併せ持つタイプ
①のルミナールタイプが最も多く約70%を占めます。
ゆっくり育つので乳がん検診がとても有効です。
一方、②のトリプルネガティブタイプは、速く育つため突然しこりを自覚して受診することになり、「1年前に検診を受けていたのに」というようなエピソードや、小林麻央さんのようなことごとく治療に抵抗するようなタイプですが、実は全体の1割程です。
③のHER2(ハーツーと読みます)タイプは、治療成績がこの10年で飛躍的に良くなったグループです。ある程度進んで見つかることが多いのですが、治療に良く反応して再発する人が少ないタイプです。
つまり、多くの乳がんは検診で早期発見ができる上に、定期的に検診を受けたり、クリニックを受診して乳がんに対する意識を高めることで、②や③のタイプの乳がんが万が一出来ても、早くに気付くことができます。この考え方を欧米では、Breast awareness(ブレストアウェアネス:当てはまる日本語はまだ作られていません)ということばを使って説明しています。
目白乳腺クリニック 院長 緒方 晴樹
乳房の痛み
「胸の痛み」で受診される患者さんが、結構いらっしゃいます。
様子をみても治まらず、不安がつのりネットを検索すると、そこには「癌(がん)」や「乳腺炎」といった恐ろしそうな言葉が登場してくることがしばしばありますね。
実際に、乳房の痛みで受診される方は、全体の70%近くになります。
そのなかで本当に乳がんの方は、1%にも満たないです。
乳腺炎は、授乳に関連しておこることが多く、発熱などの他の症状を伴います。
受診される方のほとんどの「痛み」は、生理の周期に伴うホルモン分泌の影響を受けて乳腺がむくんだために起こるものです。
マンモグラフィや超音波検査で、本当に痛みの原因となるしこりや異常がないことを確認しておけば安心ですよね。
原因を知ると不安や恐怖は取り除かれます。すると、痛みも不思議と和らぎます。
不安の種は、芽が出て根を張る前に除くに限ります。
コラムを始めます。
今後こちらでコラムを掲載していく予定です。